夜の軋み ★
atsuchan69

滲んだ肌に香水が匂う、
視覚からこぼれた淡い影たちが
発せられない声とともに
音もなく、永遠へとむかう
冷たい未来の交じった
柔らかな過去の感触がまだある

つい今しがたも、
昨日も、
生まれる以前も
窓の景色はいつも夜だった

ふたたび自由の風をおこし
燻ぶった愛を烈しく燃やすと、
忽ち、大地の裂けた下腹部は潤み
女は深淵の火照りをあらわに孕んで
嘘のない黒い瞳孔を大きく見開き、
いくども果て、
そしていくども痙攣した

滑らかな唇の
卑猥かつ命の凛々しさ
唾液に濡れて
濃密な舌に絡めた、
アノ感触がどうしても消せない

背く愛ゆえに列車は軋み、
白い合成樹脂の吊革を見上げては
いつか公園で乗ったブランコ、
たわわな胸をゆらす女の歩くさまを想い
するとまた淫らな血が騒ぎだす

やたら空席の目立つ、
長い年月を乗せたシート
その疎らな隙に乗じて
朝夕の犇めく乗客たちの残像は、
足早に何処へともなく
遠く走り去ってしまった

別れ際に足りなかった言葉が
急いたこの胸を焦がし、
古びた夜の闇に鳴る踏切へ
いつしか進路を遮られては
想いは置き去りのまま
夜の軋みに掻き消されて

窓の硝子に映るのは、
裏切る者の顔

歓楽街の夜景を透かして
巡りあうことのない筈の言葉たち
 (唇から 唇へ
艶やかな花、彼処の花へ

最新のテクノロジーがもたらした
瞬時に流れ去る世界の
消毒液に浸された昼と夜
鮮やかなブルーに灯る
電光の文字と符号に
あまねく溺れてゆく声たち
――或いは、

 水に映ったナルシサスの恋

終わらない物語の原型をなぞって
反自然の、難解なドグマを妄信し
可能なかぎり理不尽に敷かれた
罪に塗れたモラルの軌条を
人々は今日もただ闇雲に走るだけだ

 (見馴れた駅
 渇いた円環の内側で

覚えているのは、
指の蜜と棘の痛み。//
既に無人のホームへ降り立ったとき、
新しいメールを一件削除した。

きっと明日も刳りかえし、
逢瀬を刳りかえし

それでも一切をかなぐり捨て
ふたり逃げる勇気もなく
さても狂おしい
巡りあうことのない未来の
唇から 唇へ


震える、声を発して‥‥




 

※この詩は、PULL.さんの「 おちんちん電車。 」からインスパイアーされて書きました。



自由詩 夜の軋み ★ Copyright atsuchan69 2007-08-19 14:10:58
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