スクイグル交錯点(こうさてん)*コンクリートリゾート
Rin K





  「コンクリート・リゾート」


最後に僕がここに立った日
それはきっと、セピアンブルーの日
変わったものといえば
角のコンビニエンスストアの名前くらいで
もしかしたらもっと他にあるのかも知れないけれど
少しも思い出せやしない、堀川通りの交差点

僕らの日常は
いつだってここから半径100メートル
けれどもその中には
目まぐるしい不思議があった

郵便配達のお兄さんは雨の日だけ親切で
百合の花のようなお姉さんは一人で映画館に入ってゆく
晴れた空は楽しげにキラキラしているのに
すれ違ったおじいさんの目には涙が浮かんでいて
交通整理のおじさんの笑顔は
あたたかい「おかえり」に
およそ不似合いなほど歪んでいた

交錯する感情を
夕陽の赤信号にてをあげて眺めていた、僕ら
知らぬ間に外側ばかりが大きくなって
点滅する信号を振り切ろうとするたびに
飛び出てしまいそうになる僕を
僕という糸で縛り付けながら
今日は午後八時の南へ向けて疾走する



  「スクイグル交錯点」


コンクリート・リゾート
夕立の打ち水に
あまりにも精密に縮まった
楽園 僕らを閉じ込める
それはフルサト、とも呼ばれるヤツなのかも知れない

がらくたを無造作に並べるように
狭い世界はたやすく造れるような気がして
けれどそこに息づく人々は
きっと誰も誰かの思い通りにこの世界には生きないから
逃げ出せないんだ、僕も
誰かの思い通りに生きなくていいから

僕の思い通りにも生きられないのに

アスファルトの
反射熱、そういえば今日は真夏

交差点、ここは
砂の上には描けない白墨で
隣のだれか、が残した他愛ない殴り書きスクイグル
にすぎないのかも知れない



  「グラスの殻」


ガラスケースの部屋の中で
夏の方向は南だと
君が教えてくれた理由は知らない
あの日交差点で眺めていた
それぞれの理由ワケ、のように
そしてこの部屋が
どちら向きに造られるつもりだったのか も

白墨で描くスクイグル交錯点、
のようにでたらめに
もしかしたら砕けそうな
二つの手で結ぶ、僕らのクロス
セピアンブルーの夕空に沈む
どこかしら懐かしい交差点
の 行き交う思いに似た何か
が交錯して相変わらず
それら全ての意味すらつかみとれないまま
ぼくらはこれから先も
このままだと信じている

   *

夕陽の赤信号を振り切って
今日は午後八時の南へ向けて疾走する







自由詩 スクイグル交錯点(こうさてん)*コンクリートリゾート Copyright Rin K 2007-08-17 23:07:43
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