火事
ふるる

白いプラスチックの大きな箱の中で
さっきから火事
もうもうとグレーの煙
激しい咳き込み

箱の下からは
ちょろりちょろりと流れ
とても清そう
ひとくち飲んでみたい

箱の上空では
鳥が燃えながら落ちているが
落ちた先では赤い花になっている
花びらは一枚一枚が内側へ集まって
いい匂いがしそう
さぞかし

箱のふたは翼の形
それも燃えている
飛び散っている羽
燃えながら
てんごくの

清いブルーの流れの先は
それを飲み込む唇や唇
唇は花びらであったものたち
おいしそうに飲んでいる
ゴクゴク
ゴク

箱のふちには少女が腰掛けて
足をぶらぶらさせている
後ろの火事なんか見ていないから
全然気づいていない
片方脱げた赤い靴が気がかり

箱は緑の茎が巻きついていて
よく見ると苦しそう
苦し紛れの火事か
共倒れのための
少女の手首に真っ赤なリボン
細くねじれる

箱は箱だから
てんごくには行けない
逃げることもできない
ただひとつの抵抗としての火事
余剰としての流れ
を飲む
唇と唇と花びら
ただれるような濃厚な香り
リボンかと思いきや清流
れんごくの

炎で飾られた
白いプラスチックの大きな箱には
口をオーのまま
目を見開いたままの女の絵
アメリカンコミックスの絵によく似て

何をそんなに驚く必要があるのだろう
口の奥には

あっ

    赤い靴


  また誰かの激しい咳き込み


                 


          ひとくち飲んでみたい。


自由詩 火事 Copyright ふるる 2007-08-15 21:10:02
notebook Home 戻る  過去 未来