間違い電話
悠詩

もしもし母さん
なんて云うから
母なんていない
と 返す

ごめんなさい
なんて云うから
迷惑なんてもらってない
と 返す

わたしはいつだってそう
なんて云うから
あなたのことは知らない
と 返す

こんなに冷たくされるのははじめて
なんて云うから
熱された覚えないから
と 返す

あなたと話せてよかった
なんて云うから

と 返す



井戸の外から放り投げられた
ありがとうすら
自由落下で突き刺さる
自分を騙して
周りを騙して
あのジオラマお嬢さまは
それでも凶器を落とさなかった


井戸の中の井戸に立つわたし
井戸の中にお嬢さま
井戸の外にお嬢さま


受話器を置いて立ち上がる
彼女がいたであろう東尋坊
消えたはずの彼女は
そこでこちらに背を向けて



こちらの基準で本物を選べるはずはなく


わたしの作り出した分身は
わたしにしか見えない



後ろからお嬢さまに抱きつくと
醜い強がりは消えた



ねえ 気づいてよ
わたしも気づくようにするからさ
あなたじゃないヒトとの
間違い電話は
もう切ってしまいたいの








自由詩 間違い電話 Copyright 悠詩 2007-08-13 23:39:22
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