凪いでいく、夏の、
望月 ゆき



海岸線沿って定規で空を引く色鉛筆で画け得ぬ青




深く深い場所まで熱せられていくオーバーヒート前の打ち水




おしなべて心を乱す約束と雲の行方をだれも知らない




首すじに光る玉の汗つないでくカシオペア座を目印にして




遠ざかるきみの住む街の出口を 夾竹桃が記憶する夏




真夜中に泣く蝉のかなしき声と「さよなら」のノイズ聴こえないふり




夏帽子のつばをさげては陽をよけるふりをしてただただ泣く午後の




片蔭に逃げこむふたり はじまりも無くおわりも無いという約束




太陽ときみに焦がされたる皮膚を一枚脱いで忘れゆく夏




忘れえぬひとの思い出泳がせて軒先吊るす夏の金魚玉




朝夕の凪ぎの時刻の陸をきみとすれば海を誰にたとえよう






   



短歌 凪いでいく、夏の、 Copyright 望月 ゆき 2007-08-11 00:44:52
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