灼熱の盆帰り
atsuchan69

  (青い地球、その――
  アーサー・C・クラーク、
  君の書いた「幼年期の終り」だが
  ヤベー、、の書いちまったな。
  元ネタはCIAか? NSAか? あん?
  ――いや。たぶん君は誰かに
  是非、これを書くように依頼されたのでは?

  (科学を超えてオカルトだな、こりゃあ
  たしかアドルフも以前、同じよーなこと話していたっけ
  奴等はまだ公に姿を見せていない
  姿形っていやぁ、まるで悪魔そっくりだからナ。
  でも、クラークの書いた世界は
  時とともに複雑怪奇なジグソーが完成するみたいに
  それは見事に成就されていった・・・・

  (まず初めに言葉によって
  次に宗教によって

  そして金融とイデオロギーによって
 全地の民を分断したのは、他でもなく奴等だった
みたいな妄想を、また夢見ちまったゾ。

 「あー、仕事の疲れがダイブ溜まっているみたいだ

 メンフィスまでをバスで行き、
移動の間、しばし夢うつつにまどろむ
それから徒歩でクウイ家の墓へやっと辿りついた
おもむろに線香を焚き、まずは頭を垂れて御先祖さまへ合掌。
両手を組んだ柩のミイラたちへ
暫くホテル「マリオット」に滞在すると報告した

 黒い貴族のジャパニーズ育ち、
ヴェネツィアの海の眼に雑じったイエロー。
或いは、神秘を巡って果てしなくつづく幻影と
朱色に描かれた日の丸。その、もったいぶった陽が真上にある
多分、たった今 外気温は六十度ちかいだろう

 微かにクミン(スパイス)の匂いを嗅いだ・・・・
ふり向けば、黒いアバーヤを着た女が黙って立っている
すると彼女は、私の前で激しいベリーダンスを始めやがった
――きっと砂漠の悪霊にとり憑かれた女だ
踊りながら、「アナ、アッセフ!」をくりかえすが、
案の定、無視をつづけると突然もの凄い濁声で
「オマエは宇宙で死ぬ」と、英語で言ったのち失禁した
可愛そうなのでなぜか背広のポケットに丸めてあった
ピンク色のベルギー製ブラとタンガのセットを渡す

 汗を含んだリネンの背広が、すこし重い。

 ホテルへ帰って早くシャワーを浴びたいと思ったら、
途端、はるか上空で雷鳴のような轟音がこだまし・・・・
見上げると太陽を背に レトロなライトニング?(F‐35)が現れた
遙々ロンドンからの聴きなれた声が脳内受信機へ届く
そそくさと私は右の耳穴を穿(ほじく)リ
約五センチばかり通話機のアンテナを伸ばした

 「休暇中に申し訳ございません
 「いいさチャーリー、どうせ想定内だったから
 「機体は、約三十秒後に着陸します
 「おい、まさか時代錯誤の戦闘機を今から操縦しろなんて云うなよ
 「ご安心を。旧式ながら一応は自動操縦機です

 うーん、まるで昆虫。
交尾するときの腹部の動きを想わせるような
機体後部の推力偏向式ノズルが既に地面を向いている
リフトファンからの強烈な噴射が無数の砂粒を舞わせ
あたり一面、乱暴に立ちのぼる砂埃は
殺伐とした緑なき景色と魔を秘めたピラミッド、
その大いなる輪郭さえ尽く消してしまった

 やがて視界が晴れると着陸した機体に人影が・・・・

透明なキャノピー(天蓋)は横に開き、
存在しない筈の操縦士がヘルメットを脱いだ
流れるようなブロンドの髪が、サラサラと肩に零れる
 「いったい誰なんだね、君は?
眉間に皺寄せ、訝しげに私が尋ねると
彼女は少しはにかんで笑い、
 「マレーシュ と、云った

やや遅れてよく響く声でチャーリーがこう付け加える、
 「このあと機は無人で地中海メガフロートへ帰還させます
 ――どうかよい休暇を。マレーシュ!










自由詩 灼熱の盆帰り Copyright atsuchan69 2007-08-09 18:31:58
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