海色のミュール
佐野権太
夏ごとに
おしゃれになってゆくおまえが
自慢のミュールで前を行く
(なぁ、おまえが選んだっていう
(このお父さんの水着
(ちょっと
(トロピカル過ぎやしないか
いつか
波にやられて
泣いていたおまえが
浮き輪さえあれば
もうどこへでもいけると
涼しそうに
置き去りにする
離れちゃいけない
なんて呪文が
いつまでも効くとは
思ってやしないけど
見えた―――
と叫んで
ずぶずぶ沈む
踵を
もどかしく脱ぎ捨てて
駆けだす背中
傾いても
夏をまっすぐ反射した
海色のミュール
*
窓辺に乾かした
夏のかけら
滑らかな白の巻貝は
下半分にエナメルを塗ろう
おまえが民宿で
爪先に塗ってもらった
あのライムグリーンの
まるで海だ
(なぁ、聞いてんのか
(さっきから何を描いてるんだ
(スイカように笑ってる
(その横の泥棒みたいなのが
(まさか、お父さんってわけじゃないだろう
いつか
つまずいたとき
思い出してくれたらいい
あの
小さな蟹の速さとか
かき氷の高さとか
曲がりくねった海岸道路から見えた
途切れとぎれの海に
何度も残した
さよならだとか
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家族の肖像