果物の匂い
水町綜助

部屋の中で
結実することのない植物の鉢植えが
かたむいて伸びきっていて
高架下のスーパーマーケットには
南の島でもがれた果実が並んでいる
光にとばされた道路の上から
ガラス越しにくわえ煙草でそれをみていれば
花屋の前を通りがかったときのような
みずみずしいにおいが浸すから
あとは手を伸ばして齧るだけだ
雫は流れるだろう
平をつたって
手首を斜めに巻き込んで
雫はまたうすっぺらく溜まる
そんな説明的なはかなさを
ながれていくまま眺めて
この雫はくだもののにおいがするんだ
とてもなつかしくて
甘がなしい季節の味なんだ、って
いったいなんのためのつぶやきなんだ
はやく飲み下せよ
そしてできるかぎり悲しめ
踏みつぶした果実みたいな
体の中のにおいを嗅げよ
そしてそれがすんだら
いいから家に帰って
根元に抱いたサボテンと一緒にしおれているから
あの鉢植えにみずをやりな
受け皿に染み出すくらいには
みずをやりな


自由詩 果物の匂い Copyright 水町綜助 2007-08-03 22:24:58
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