夏についてのスクラップ
水町綜助







ひと振れ

蝉の声かな
とおい町外れの
森林から
あたかも
きみとは
まったく
かかわりあいが
ないっていう
そんなふうに鳴いて

そのまま

ブロッコリ
洗いたての
カーリーヘア
少しだけ開いてる窓から
離れていくタイプの
風が橙色に吹きながれたら
くるりまるまった
髪の毛のさきで
やっぱり
しずくも
まるまってる
おちそうに
ふるえて

オレンジの
髪の毛の
さきっぽ
そんな
出来すぎた繊細さを持った



の居た
小高い丘の上の町
でも
君はアパートの一階で
それも端っこの部屋だった

隠されている
ひあたり
のよい
そこで
君は課題なんかを片づけている
君の頭上の
(天井の
 上の
 二階の
 部屋の
 天井の
 上の
 あかい屋根の
 上の)
空は
そりゃ青い

僕はといえば
横をすり抜けるように
光の帯を
ひとみの
ガラス体に
ながすだけながして
それだけ
って
あとは余白を眺めて

茫洋と

空虚さのあらわれとか言ってしまいがちな
空冷並列四気筒をクランキングで満たして
それで
排気音はそりゃ高くのぼってゆくんだろうけど
僕はヤンキーじゃないし
そんなに胸がすくもんでもないよ

この道路が
乾ききってるまま
あの信号を
右に曲がれば君が住んでて
アイスキャンディーかじってるとか
そうじゃない
森をもやして
そこで死んでる君のからだももやしてるとか
そんなくだらないことばかり
さめない現実として空想してるだとか
そんなことを思いながら
左へ曲がるのがすき

だって
「君には知られない」ことなんだよ
それは
くるくると回ってしまって
なめらかに
とてもなめらかに回るよ

くるくる

まわるといえば
商店街の花飾り」
錆びた鉄橋を渡りきったのは六年くらい前で
まろびでたのは
日没前を東西に抜ける
晴れやか

な目抜き通りだ
プラスチックを切り抜いただけの
花飾り
からからと回って
黄金に満たされた
街路に人はいない
どちらへいけばいいかわからなくて
聞く人もいないから
僕は西へ行った
山道は曲がりながら伸びて
森の透き間をつらぬく光は
幾何学様
切っては
はりつけられ
また、切られては
はりつけられる

光はそれでも注がれた
読み飽きた本を片手で
めくるはやさで

とじられたのは
いつか



鉄橋の下は
黒い川
精霊流しが
ちらついて
消える

生きている
ひとびとは
合わさって
天球として
夜空と町の
合間に浮かぶ

完結してしまっている町
黒い川は
そこから出るための
たった一つの道

生きながらそこから出てきた君とのこと

コオロギが
花火の残滓のきらめきみたいに
鳴く前に
終わらせなくちゃいけない

位置は
ここじゃない
どこだろう

 *

地方都市
人口約2100000人
00:25
九月二十日
2001

忘れた本を取りに行く
というから
車で送っていった
建物の裏のフェンスに座って待っていた
グラウンドの向こうは崖で
その下には夜の町が遠く見えていた
裏口からでてきて

みつかったから

というから
そのまま崖の向こうの眠りかけている町を見ていた
金網にもたれ掛かるから
僕はフェンスの向こう側に降りて
腰の高さほどの草むらに立って
僕もフェンスにもたれて
また町をみた
なにもことばはなくて
風もなかった
リーンと長く虫が鳴いて
踏んだ草のにおいがした























自由詩 夏についてのスクラップ Copyright 水町綜助 2007-08-01 02:28:39
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