モデルの影
木屋 亞万

モデルが 影をどけて と叫んだ
影が後ろから足を引っ張ってくるの
照明を目の前にして 背後に伸びている影
右足を男の手が 左足を女の手が 足を引っ張るの
忌々しげに影を振り返るけれど 影は真似て動くだけ

「照明を消そうか」と尋ねたら
私を殺す気なの と思い切り睨まれた
影が首を絞めてくるわよ
モデルは体全体に照明を当て続けた

でももう歩けない

「照明を増やしてみたら」と助言してみても
照明が強くなれば影も強くなるわ
残念そうに笑いかけてくれた
他に何か無いかしらと促す笑みだ

「上から照明を当ててみれば」と提案すれば
影の穴に引きずり込まれそうになるの
太陽が作る影の穴がいつも怖かったんだから
モデルはしゃがみ込んでしまった

生まれたときからずっと
影はすぐ傍にいて
立ち上がったときから
ずっと足と繋がっていた

「ちょっとジャンプしてみて」閃きが頭をよぎる
モデルはヒールを少し浮かすくらい飛んだ
意味がわからないと目で訴えてくる
「影を見ながら」
また飛ぶ カシュッカン
もっと高く飛ぶ 
ふうわりふうわり ゆるい服が揺れて

モデルはまた照明に向かって歩き出した
一歩踏み出す度 影は足から離れて
足が宙に浮く度 引っ張る手は引っ込んでいく
歩くことは 生きること

影はずっと傍にいたけれど
ずっと繋がってはいなかった
影はただ支えようとしただけ
手に力が入りすぎていただけ

これからモデルは飛躍的な成長を見せるかもしれない


自由詩 モデルの影 Copyright 木屋 亞万 2007-07-30 00:11:01
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