ノート(本)
木立 悟



風のなか
ひらかれる本
ひらかれつづけ
とけてゆく文字
とけてゆく頁
「死にかけた鳥を
 藪の根元に置いた
 雨を避けられるよう
 鴉を避けられるよう
 湿った土の上に置いた
 小さな羽
 小さな風
 私の偽善の手」



雨のなか
ひらかれた本
文字がにじみ
次の頁を
逆さまに映す
「理解という名の幻想
 納得という名の停止に陥ることなく
 疑問を持ちつづけること
 言葉のあとの
 一杯の水にも」



光のなか
ひらかれる本
いくつかの文字を残し
ひらかれたまま
消えてゆく本
「見つけ 運んできてくれた
 子供たちに嘘をついた
 泣きそうな顔で行方を聞いた
 あのひとに嘘をついた
 雨上がりのしずくのなか
 揺れる藪の根元から
 鳥はひとり飛び去ったと
 鳥はひとり
 飛び去ったと」
 


自由詩 ノート(本) Copyright 木立 悟 2004-05-22 06:49:29
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