ポンコツ
本木はじめ

僕がこうしている間にも
みんなは難なく乗り越えてゆく
僕は車が故障したので
修理するフリをしている

もう何年も

時々車を押してみる
見飽きたこの風景とも
今日でさよならさ
とか思いながら

そして今日もまたこの長い坂道まで来た
足がすくむ
唾をのむ
今日もまたこの長く険しい途方もない非常識な坂道まで来た
だからって進まないわけじゃないさ
僕は力一杯車を押して
坂道の七分目くらいまでがんばる
この前は八分目くらいは行ったのに・・・
僕は力なく手を離す
車はゆっくりと後退する
だから僕は仕方なく
車に乗る
逆走してるのはわかってるけど
結構楽しいんだ 
スピードがあがるにつれて
だんだん進んでるんじゃないか?とか
ひょっとして
後ろが前で前が後ろなんじゃないか?とかあれこれ
そう勘違いできるところまでくると僕は
そもそも車なんて
なんで持ってゆく必要があるのかと考える
でも何度考えても答えは出ない
ただ なんだかこれを捨ててしまったら
僕はもう坂道さえ
見なくなってしまいそうな気がして。

今日もまた
「こりゃ、ラジエーターだなっ」
とかうそぶきながら修理するふりをする



自由詩 ポンコツ Copyright 本木はじめ 2004-05-22 00:07:09
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