ノスタルジア・メロウ
砂木





かぶとの木と呼ばれていた
通学路沿いの
道から少し滑り降りて入る草薮の中の
真ん中がくり抜いたようなくぼみのある木

樹液が蜜のようで 夏にもなると
かぶと虫や くわがた虫が自然と寄っている

朝っぱらから 
ランドセルの重さも気にしないで
今日はいる 今日はいないと
のぞきこんで捜してた

かぶとの木に かぶと虫をみつけると
登下校も はしゃいで
世界の秘密を ひとつ知ったような気がした

近所の林檎の選果場の建物の隅に
小さな箱などが置かれてて
夏には稼動していないその場所で
なわとびやら鬼ごっこやら
走り回っていたのだけれど
誰だったか ふと 小さな箱を開けて驚いた

かぶと虫のメスがたくさんいた
オスよりもメスをみつけるのが珍しかった
林檎の屑の中に 幼虫がたくさんいたのだろうか
あんなにたくさんの かぶと虫をみたのは初めてで
みんなで飼おうと うなづきあった

姉として
かぶと虫に さわらないわけにはいかなかった
オスは つのを持てばいいけれど
メスは やっぱり 横腹を掴むしかない

虫は見るのはいいけど 触るのは怖かった
掴もうとすると 飛ぶ体制に入る
メスは 横腹がすべる
でも 弟に持ってみせないのは
姉として ひくにひけない大問題のような気がした

姉ちゃん かぶと虫 持てるしゃ
私は 威厳を保った とにもかくにも一瞬
テレビのチャンネル争いなどは
負けることも多かったが

草薮に滑り下りても
今は 切り倒されたかぶとの木
清潔な場所は確実に増え
砂糖水を作って 罠のように木につけたりなど
もう 誰もしないのであろうか

どうしてあんなに夏を泳いで楽しめたんだろう
泳ぎ回る 尾を追いかけるように
ひそりと ひらりと




自由詩 ノスタルジア・メロウ Copyright 砂木 2007-07-20 23:50:30
notebook Home