解かれた家
草野大悟

解かれた家はあたりの景色を変え
歴史のつむじ風を吹かせる。

ユンボが
さっぱりと暦をかみ砕き
暦はまた小さな風となって
背筋を寒くする。

鳥肌の立った皮膚に
父と母の
祖父と祖母の
そして僕の血の流れたちの
刻まれた日々が
ふつふつと湧き上がる。

満州に夢を追った祖父
その後を追った祖母
赤紙の夜
空襲に消え入りそうにして
やっと産まれた命

何百人という従業員をかかえた暮らし
竹と筵のスイカ売り
祖母の死 六人の子供
生涯定職を持たず
栄養失調のみかん箱机
共同便所のはねかえり
今もそれにうなされる父

解かれた家のあたりは寒々と
僕らのあの日々を思い起こさせる。

まっ白に笑う父は土をひねり
膝の悪い母は今日の買い物の報告をし
何事もなかったかのように
孫たちを見つめている。

わずか三時間足らずのうちに
すっかり削り取られた歴史の上で
娘らがはしゃぎ回る。



自由詩 解かれた家 Copyright 草野大悟 2004-05-20 14:20:11
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