かなしみをもたない
夕凪ここあ

たまに
思い出す
ふと
きみのゆびさきの
深爪のやさしさ

買い物帰りの
坂道や線路沿い
二番目の
小さな交差点
そんな場所に
沸き立つ
やさしさ

ひらがなを
好むきみの
ゆびさきを探す
夜明け
だって
呼吸が
細くなって
いるんだもの

だって
やわらかいかんじが
するだろう
また
まあるいもの
ばかりを
あつめるくせ

ねぇ
きみは言うけど

かなしみ

ほら
余計に
せつなく
なることを
きみは
知っていたの
私は
だから
かなしみをもたない

せかいは
朝から夜まで
やわらかくて
そこかしこで
ゆびさきのやさしさ
に出会ってしまう
せいで
いつまでも
忘れられない


近いうちに
引っ越そうと
思うの

伸びた襟足
よれた袖口
かなしさが
こぼれだして
きみの手のひらを
はなした
ときみたい
だった

さよなら
と口に出そうとして
輪郭をもう
忘れかけて
いる

そうして
どうしようも
ないほどに
私のゆびさきは
深爪で

かなしみばかりを
いつまでも
かじって
いる


自由詩 かなしみをもたない Copyright 夕凪ここあ 2007-07-19 01:35:25
notebook Home 戻る