故郷
円谷一

故郷へ訪れようと想像すると
胸の中の世界の海底に沈み込む
思い出したくない傷付きたくない
忘却したいという
自己防衛機能が働いるのかもしれない
此処へ移り住んだ時には
希望と夢でいっぱいだったが
君が亡くなった時から既に
それらの崩壊音が
聞こえていたのかもしれない
此処で後悔と失望を味わって
故郷への哀愁が滲み出してくると
すぐに故郷へ帰ったのだが
そこで共に成長した人々が
まるで変わってしまっていて
冷たく
時の流れを感じ 絶望してしまった

それからというもの
故郷は上昇したり沈んだりして
胸の奥ではボロボロになっている
それへの意識がある限り
苦しみ続け?故郷?の無い
自分が鏡に映る度に暗闇に
目を背け続けるだろう

君という支え続けてくれる?人生論?は
幼児が積み木を重ね続けるように
不安定で何時倒壊するか分からない
その時はこの素晴らしき人生というものが 終わる時であり
君とは別の世界へ向かわなければ
ならない時だ

果物がたくさん実っている果樹園
アダムと君が食べた果物とは
この中の果たしてどれだろう?
この世界を追われたい気分なんだ

故郷が海上に浮かび上がった時
それが最後だと思って
色々な思い出を見て回った
そこには十代の頃の君もいて
一年間だけ同じ高校に通っていたことを
思い出した
故郷は色付き始め
感情を失ったまま昔の日常を過ごした
休憩時間にわざわざ吹奏楽部の
先輩の所に行って
どうでもいい質問をしながら
君のことをずっと見ていた
世界を?出て行った?人々には
話し掛けられない決まりだから
いつまでも形而上学が好きでいて
君は星空と
プラネタリウムが好きな人だった

想起することで何時でも君に会えることを 理解しているのに
それがもう限界なのも知っている
欲望という我が儘が新しいものを
渇望している
いつまで経っても古いままで
幼児の建てた積み木が崩れてしまって
君は窒息し生きることに苦しむことで
永遠に輪廻している

苦しさを堪えて本物の故郷へ帰った時
もう一つの故郷とは異なるが
ひどく殺風景な景色だった
古びた高校の校舎は建て直されているし
ロータリーのガソリンスタンドも
街のカラオケ屋も潰れていた
君の眠る海の見える丘の墓地に行って
あらん限りの号泣をした
君が感じていた寂しさの欠片を夜空に見た


未詩・独白 故郷 Copyright 円谷一 2007-07-19 00:18:31
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