海の瞳
未有花

心の中の海が騒いでいる
いつまでも鳴り止まない潮騒
僕は不安でたまらなくなる

こうして本当の海を眺めていても
聞こえて来るのは僕の心の潮騒か
それとも目の前にある海の波の音か
それさえもわからなくなって

思い出すのはどこまでも深い海の瞳
妖しくきらめいて僕をみつめていた

あの嵐の夜に見たあれは幻
荒れ狂う波の彼方で出会った美しい人
あの人の冷たい肌の感触を
今でもよく憶えている

それはとても冷たかった
まるで氷の腕に抱かれているみたいに
僕は寒くて寒くて震えていたんだ

ただ波に揺れる緑色の髪と
海のような瞳だけはとても綺麗で
遠くなる意識の向こうで
僕はそれだけを夢に見ていたような気がする

あの日の出来事がまるで嘘のように
海は穏やかに凪いでいるけれど
きっとあの人はこの海のどこかで
僕を見ているにちがいない

僕の心の中で今もざわめいている
潮騒を静かにみつめているんだ
あの海のように深い瞳で





自由詩 海の瞳 Copyright 未有花 2007-07-18 10:46:03
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
フェアリーテール