祈り
水在らあらあ






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七百七十六番目の天使が
翼をなくした
俺は 黙っていた
言葉は全て 汚れているから
俺は 黙っていた
あと十秒



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六百六十五番目の悪魔が
翼を引きちぎる
俺は 泣いていた
お母さん 俺は 泣いて
信じようが信じまいがあんたの勝手だが
ただ俺は泣いていたんです 神様
あんたが何を信じようと信じまいと



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五百五十四番目の人間が
翼を夢見た
俺はそいつの脇腹に穴を開けてやった
聞こえますか彼女の涙が
愛欲の荒野の果てで凍てついてゆく音が
だから俺はそいつの脇腹に
穴を開けてやった
青空が
見える



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一番初めで一番最後の 恋人が
翼を燃やす
真実の 女神
俺は 見つめていた
瞬きも 忘れて
感情の 地平のその果てに
かなしみを 沈めて
救われる 
彼女と 彼女の涙だけは



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九百九十八回目の輪廻から 新しい人々が
水平線に誕生する そして崩壊する
傾いた 日の光
俺はあなたの脇腹に開いた穴に 塩を塗る
同じ血に 同じ絶望に
あなたの様には生きてゆけないから
旅立たなければならない 一人きりで
かさぶたが 固まる前に
思い出は 遠い日の
あなたのいない
凍える浜辺に



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何番目…だったか…
吊るされた 男の首
俺は 笑って
ああ もうだめ
もうだめなんだ
おまえをこの呪われた腕の中で
ああ もうだめ もうだめなんです
おまえを
永遠にする



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さよならを何億回繰り返しても
さよならは
さよなら

思い出は
光り輝く星になって
宇宙のどこかで自転を続けて
俺はただ生きたかった
俺はただ与えたかった
差し出した手のひらに満ち溢れる涙に脅えて
美はいつでも震え上がって天空のその座にしがみついて
君はただ生きたかった
君はただ欲しがった
形の無い 液体でも固体でも波動でもない何かを
俺にはなにもなかった
君にはなにもなかった
俺はただ生きたかった
君はただ生きたかった

信じるとして
この空の青さを信じるとして
自由だとして
恐ろしいくらい自由だとして
永遠に離れて
散らばってゆくのがこの銀河のたどる道なら

讃えろ
そして
光よりも早く
砕け散れ














自由詩 祈り Copyright 水在らあらあ 2007-07-17 06:58:54
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