手つなぎ鬼の足音
ねろ

手つなぎ鬼がぐるぐるまわってこっち見て笑う
鬼はどちらかなんて分からないと答えると
かけた歯を見せてうれしそうに笑う
ぼくにはそれがとても無邪気に思えた

鬼さんこちら手の鳴る方へ

小さな手が何本も束になって
始まりに向かって伸びていく
いっしょにあそぼうよ、あそぼうよ、
ちいさなゆうれいが廻りまわって
僕のところで終わる

鬼さんこちら手の鳴る方へ

そういうものが僕には祈り、に見える
小さくいながらに明日が続くことを
続かないかもしれないことを知っているようだった

僕は這い回るいくつもの明日の可能性を探しながら

夕べをとじこめた冬のグラスを洗ってたら手から滑って落ちた
割れた破片を拾い集めるその行為は複雑に明日へと回帰していく

そこの真ん中にいるのは大人の僕を纏った小さな僕

何日も太陽の沈まないまちで子鬼はとうめいな破片を拾っている

何日数えても昼間の月には出会えないのを知っているように

アスファルトの上には楕円形の走り書きの跡
それを1、2、3、4、と数えながら飛び跳ねていく
笑ってんだあカモシカが髭をそって遊びにくるよって
フェンスにぶらさがって明日も明後日も来ないことを感じている
変わらない日付をひとつ越える間に惑星のひとつひとつに名前をつけている

白いねずみが跳びあがって夜が来ないのを祝ってる
感じた隙間は僕が僕でさえないときがあるからだ

鬼さんこちら手の鳴る方へ

歪んで行く地平線に太陽が触れた時が最後だと子鬼が言う
僕が僕であろうとした時に日は暮れてしまうのだろうか
幼い質問をかかえながら僕はクリーム色の街で息をする
ひとりでぐるぐる歩き回りながら言葉の最後を少し噛みしめる

大きな拍手を受けたみたいな気持ちになるとき僕は思わず手に汗を握る
小さな手が、小さな手が、僕に拍手をするよ怒ってないから出ておいでって

僕は荒野に置かれた白い小箱について考える
昼間の月はきっとその中にはいってるんだと思う

フェンスにぶら下がった子鬼たちが不思議そうに眺めている
女の子の子鬼が子鬼がフェンスの針金で出来た傷が
瘡蓋になっているのを気にしてごしごし擦っている

ワールド イズ ノット マイン

例えば手に入れようと思うことも欲望することなら
手に入れないと思うこともまた欲望することになる

僕の着ている服の一番上のボタンが欠けている
そこから広がる次を指し示すラインに
僕はまだ良くないことを考えている

例えば僕の最後がそれならば
僕は本当に子鬼なのだと思う

欲望することは容易い
渇望することは容易くはない

例えばそれだけのことをしても明日に繋がらなかった時
踊っているのは子鬼のダンスで夜明けを告げるときに始まる

青が一番怖いのは夜明けだという
だから踊ろうよ夜明けのダンスに月と太陽を浮かべて

僕と子鬼と君をみんな連れて日曜日がまた来るよ

僕は君の歩幅が好きだ眠りながら手をつなぐのは
明日のかわりをもうずっと探しているから






未詩・独白 手つなぎ鬼の足音 Copyright ねろ 2007-07-13 18:02:01
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