幸福のデッサン——デッサン
前田ふむふむ
繰り返される福祉が、
新しく歓迎の声を受けて――、
福祉は、いくつもの、与えられた菓子を食べる。
なかには、埃を被っている、
国民精神総動員要綱も、
遠くに、ちらついて揺れている。
埋立地の産業道路を、通信簿の優秀な◎をつけた、
大型トラックが、ごみ処理場にすすむ。
騒音を上げるたびに、一房の飢餓が、こぼれおちる。
その吐いた息が、静かに、
夏の精気を逞しくした地図の、きみどり色の囲いをはずして、
平地を、薄茶色に染めている。
海を忘れた母の実家に接続する神社には、
いまも、海のにおいがする。
境内では、夥しい巻貝、二枚貝が、
地面に、はめこまれていて、
子供たちは、生きた海を想像して、好奇に観察するが、
この「生物」の大切な学習課題に、
引率する先生は、かつてごみを流しつづけた。
福祉は親のように、優しい顔をする。
先生の口から、一台のトラックがあらわれ、
やがて、また一台、また一台とふくらみ、
いよいよ優秀な◎の列をなして、
子供たちの課題のなかに、
ごみで築いた夢の島を流しつづける。
1944年、緊急な戦費調達を目的として、
厚生年金保険法が施行される。
引き出しを開けたら、年金手帳が二つもあった。
銃後の守りは、
きちんと整理しなければならないのだろうか。
とうめいな戦争は、
わたしの飢餓している、乱れた眼にも、
コンタクトを入れてくれる。
「飢餓しているので、メガネも三つ、持っている。」
福祉は、暫し、いろいろな顔を見せる。
青い波のような手紙であった。
「世界では、三秒にひとり、五歳に満たない子供たちが、
命を失っています。その一方で、一袋わずか六円の
経口補水塩が、ひとりの子供の命を救うことがあります。
日本ユニセフ協会 」
青い波はつづく。
波打ち際をゆく、黒い肌の子供たちに、
やわらかい日差しが、無邪気に戯れている。
悪戯っぽく軋む砂浜に、
無垢な子供たちの、疲弊した
夥しい白いパラソルが揺れている。
糖尿病のカラスの群が、真夏の空を進軍する。
テーブルに広げた地図に描かれた、
熱帯にひろがる、
朽ち果てそうな湿原に、銃口を備えよ。
すべて、残さずに刈り取れ。
地図は前進する。
雄々しく前進する。
わずかな湿り気を、洗濯乾燥機で主婦は蹂躙して――。
模範的良識家族。
テレビの先頭に、
美しく家庭の情操教育の広報を貼りだす。
父「今日は、たまには家族で外食をしょう。」
娘その一
「和牛のステーキが食べたいね。」
母「あの店は、魚料理も捨てたものじゃないわよ。」
娘そのニ
「デザートの手作りバニラも美味しいね。」
娘その三
「家族仲良くが、私たちのモットーだからね。」
戦場は、音もなく、ひろがる。
上から下へ。
縦から横へ。
※ 日本ユニセフ協会のメッセージを引用。