容器の中の夏
A道化




濃度を増した緑 の根元
アスファルトには 日陰がある
かつて人だった空間には
かつて花束だったものが 積もっている


湿度に黒ずんだ日陰 の隣
アスファルトには 日向がある
泣きながら合わせられた手のひらの跡では
誰もいない夏が 発熱している


夏のことを全て忘れた人たちが
夏のことを何も知らない生き物になれるなら
どうかもう どの夏をも思い出しませんように 
何も知らないまま どの夏のことも思い出さぬよう
どうか計らわれますように


アスファルトにある 日陰と日向は
やがては ひとつの夜となり
明ければまた 日陰と日向になり
繰り返しではないと妄信することで やっと
夏を受け取れる生き物が いる


何かに思い当たりそうな瞬間には 
夏の発熱を用いて
体温から順に有耶無耶にすることで
最初から誰もいないように陰ろうアスファルト
嘗てから誰もいたことがないように白むアスファルト


そこでなら 自ら眩んで
夏を 無視できる
そのようにして
有耶無耶になった空の容器は やっと
夏を 受け取ることができる



2004.5.18.


自由詩 容器の中の夏 Copyright A道化 2004-05-18 10:20:16
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