風ノ人
服部 剛

二十一世紀の
ある青年は日々 
( 姿の無い誰か )が 
自分を呼んでいる気がした 

 *

二千年前の遠い異国で 
ある村の漁師は湖の畔に立っていると 
背後を誰かが通りすぎ 

( わたしについてきなさい・・・ ) 

漁師は手にした網をすぐに離し 
人の姿で生きていた
( 風ノ人 )の 
不思議な背中についていった 

村の貧しい家々をまわり 
独り死を迎える
痩せこけた老人の枕元に坐ると
( 風ノ人 )は
黙って細い手を握り 
窪んだ瞳が潤むのを 
じっとみつめた 

 * 

二十一世紀の
ある青年は 
いつも寝る前に 
( 風ノ人 )
という本を読んでいた 

本を閉じ 
独りの夜に耳を澄ます 

( わたしについてきなさい・・・ ) 

二千年前の 
漁師に語りかけた 
あの声が 
何処か遠くから  
耳元に囁く 








自由詩 風ノ人 Copyright 服部 剛 2007-07-09 21:22:39
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