夜光雲の翅
蒸発王

いっそ
この身も
空に焼かれてしまえば善いのに



『夜光雲のはね


こう毎日毎日暑いと
夜明けの空には
夜光雲が
欠かすこと無く空を彩るのです

今朝もまた
見かけました

空にかかった
天然のステンドグラス
鉛色の匂いがする曇天に
陥るような瑠璃 群青
其の一つ一つが
真珠の粒子でも溶け込ましたように
艶やかに光る

夜光雲

朝焼けすら
夜光の色気には
落ちてしまうようで
山の裾に追いやられていました


あの美しい雲が生まれるのは
温暖化だ温暖化だって
人間様は難しいことをおっしゃる

ええ

外れてはおりません

けれど

夜光雲が何でできているか

ご存じの方はいらっしゃらないでしょうね



夜光雲はね

蝶のはねなのですよ



毎日暑いものですから

蝶の翅が溶けだしているのですよ


昼の太陽が滲んだ
赤外線が
水飴のように粘ついて
蝶の翅を包むので
羽ばたくたびに
こすれ
蕩け
たゆうように
七色の麟粉が蒸発するのです

一晩かけて
夜空は
麟粉をたっぷり吸い込み
其のまま
夜が明ければ


ほら


青筋揚羽から絞られた
群青 瑠璃 翡翠が

黄揚羽の蕩けた
黄金 白銀 黒羽色が

紋白蝶の染み込んだ
白 鉛色が


全ての翅が

蝶の翅が
命の艶を光らせ
翅をかたどった雲が

空に羽ばたくのです



私の母さんも

姉さんも

妹達も

皆空に羽ばたきました


悲しくなんかありません

地上で焼かれるも

天上で焦げるも

所詮
同じこと


いっそ
この身が空に燃え
大空へ羽ばたけたら
善いのです


もっとも

天上にあがった
夜光雲の翅は
そのまま
空の彼方へ飛んで行って

もう帰って来ませんが


こんな小さな
シジミチョウの私でも

雄大に飛ぶ

オオムラサキのように

美しい
夜光雲になれば

きっと

上手に羽ばたけると思うのです






『夜光雲の翅』


自由詩 夜光雲の翅 Copyright 蒸発王 2007-07-05 20:15:58
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