だぁくん
小原あき

暗闇にはだぁくんがいる
たぶん夜行性で
明かりのない部屋とか
夜中の長い廊下とかに
体育座りをして
誰かが来るのを
待っている

照明をつけないで
廊下を歩くと
だぁくんは近づいて来て
そっと腕を掴む
幽霊みたいな手つきだけれど
不思議に怖くはない
むしろあったかくて
心地がよい

暗闇を一人で歩くと
少し不安だけれど
だぁくんが腕を掴んでくれると
安心してトイレに行ける

真夜中に寝付けないでいると
だぁくんは近づいて来て
歌を歌いはじめる
夫に気付かれない声で

子守唄じゃない
バラードでもない
聞いたことのない歌を
やさしい声で
撫でてくれる

気が付くと
日が出ていて
だぁくんはいなくなっている

昼間にだぁくんに会ったことはない
彼がどこで何をしているのかわからない
もしかしたら
昼間でも暗い
クローゼットの中で
縫い物でもしているのだろう

暗闇が怖くてしかたがない
子供たちを
安心させる
ぬいぐるみを縫うために


(だから、裁縫箱はクローゼットにしまっておくのです)






自由詩 だぁくん Copyright 小原あき 2007-07-05 17:19:17
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