切り裂きジャック
草野大悟

三日月の夜に
ひんやりと矜持を研ぐ奴がいる。

これまでに何十人もの肉を削いできた
彼のただ一つのアイテムは
哀願と絶叫によって切れ味を増し
涙と血によって絶対に近づく。

彼は切り裂く
しわしわの豆腐を、
彼は抉る
ふたつの闇を、
切って切って 切り刻む
一世紀を切り刻む。

ところが今日
あちこちに散乱していたそいつらは
忽然とそそり立ち 濡れ
ぽろぽろとジュニアを産み出す。

切り刻むそばから産まれる
無数のよちよち歩きの刃が
彼を心底蒼白にする。

ジャックよ
あわれ滑稽の恐怖よ
おまえにはもはや
己を食い尽くす術しか
残されていないのか。

足元から矜持が凍ってゆく。

彼が氷となる。


自由詩 切り裂きジャック Copyright 草野大悟 2004-05-17 10:07:29
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