紅い夜空
松本 卓也

深夜だというのに遠い空は
いつも紅く燃えている

街の明かりにしては冷たく
群集を誘う目印にしては穏やかで
坂道の中腹で眺める景色は
星や月と並べるには不釣合い

ほんの少し前まで
あそこに居たのが
信じられないほど

肌にまとわりつく湿気
髪を重く沈ませる汗
重い足と痛む腰
焦点を失くした視線

体は眠りたがっているのに
頭は起きて居たがっていて
明日という名の今日を思う
憂鬱ささえ楽しんでいる

我が家まで数十歩
電車など来ない線路を超えて
癒したのは体の疲れか
それとも心の軋みなのか

陽炎が遠くで揺れている
夜はもう睡眠以外の選択肢を
何一つ残してなどいない

せめて明朝溜息で目覚めぬよう
紅い夜空が与えてくれた
仮初の温もりを抱いて

夢さえ忘れて
さぁ眠ろうか


自由詩 紅い夜空 Copyright 松本 卓也 2007-07-03 01:13:55
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