ミラーボールの夜
服部 剛
仕事の後に
友のライブを見ようと駆けつけた
ライブハウスがある
渋谷・ホテル街
時折ぬるい夜風が吹いて
娼婦の亡霊が通り過ぎ
地を這う鼠が路地裏に滑りこむ
小路を抜けて
灰色の壁に埋め込まれた扉を開くと
階段下の地下に舞台があった
天井に揺れながら回る
ミラーボールが反射する床に
無数の光の粒は流れる
ギターを抱えた友は舞台に現れ
「ホームタウン」という
心に沁みる唄を弾き語るものだから
「こもれび」というカクテルを飲み
夕焼け色に染まった頬に
銀の涙が伝って落ちた
日頃の仕事を背負うのが
少し疲れると
時々荷物を放って置いて
ライブハウスに
ぼくはゆく
一曲ごとに口笛鳴らし
飲めない酒をぐいと飲み干し
客席から唄歌いの名を叫ぶ
時にはそんな夜もいい
そうして
自分の破れちまった
いつかの夢を
手を胸にあて
脈打つ鼓動の内に
あたためる
無数の蛍が
床に舞う
ミラーボールの夜