雨男と雨女
吉田ぐんじょう


小学生のころ
仲が良かった友人の家の
お父さんは雨男で
お母さんは雨女だった

家に行くたびいつも羨ましかった
彼女の家の中はいつも雨で
じゅうたんにも床にもトイレにも
まるで熱帯のように
さまざまな植物が生えていたから

わたしたちはままごとをしながら
その辺に生っているバナナを食べ
黄色い傘を差したまま折り紙をした
折り紙はもちろんすぐに
ぐずぐずになってしまったけれど
それを友人のお父さんにあげたら
お父さんは喜んで
更に強い雨を降らせてくれたし
お母さんはそれを見て笑いながら
うれし涙を少しこぼして
足元からマンゴーの樹を生やしてくれた

夕暮れ時に
友人の家から一歩外に出ると
いつも外は
まぶしいくらいに晴天だったことを覚えている

それから少しして
友人一家は遠い街へ引っ越していった
挨拶には来なかった
たぶん
わたしの家に雨を降らせると申し訳ないと思ったのだろう

遠い街に引っ越した友人からは
今も時々手紙がくる
手紙はいつもしっとり湿って
うっすら雑草が生えている

ここいらは雨ばかり降ります

毎回のように書かれた文章を読むたび
わたしはなんとなく嬉しくなって
少し笑ってしまうのだ

友人一家が居なくなってから
この町にはめっきり雨が降らず
そのため砂漠になってしまった

わたしは少し迷ってから
友人への返事をしたためる
また遊びに来てね
そうしたら折り紙をやろうね


らくだの背中は揺れるので
いくら丁寧に書いたって
文字は歪むばっかりだけど



自由詩 雨男と雨女 Copyright 吉田ぐんじょう 2007-06-26 17:21:41
notebook Home 戻る  過去 未来