琥珀色の悲恋
渡 ひろこ

さっきから訳もなくティースプーンでカップの中を掻き混ぜてしまう
そんなにしたら紅茶が冷めてしまうのがわかっているのに
渦を巻く琥珀色の液体をじっと見つめる


「黙っていたらわからないじゃないか」


頭の上を語気を強めたアナタの声が通り過ぎる
押し黙ってしまうのは
言葉にすると何かが崩れてしまいそうだから
目の前にいるアナタがもっと遠くになりそうだから

金色のティースプーンをソーサーの上にカチャリと音をたてて置く
それが合図のようにアナタが言った


「俺 もう疲れたよ」


ワタシはティースプーンから指を離さぬまま
予期せぬ言葉に思わず顔を上げる
アナタがぼやけて見えて
溢れ出るものが頬をつたいカップの中に落ちた

   

    哀しくて泣いているんじゃないわ
    抵抗してもアナタに支配されてしまう自分が情けないのよ
    おざなりの関係ならもう結構よ
    ワタシは強く生きたい
    だけど・・・
    ピリオドを打ちたくてもできない弱いワタシがいる
    悔しいけどアナタを愛してしまったから・・・
    そしてそれを見透かすアナタがいる
    



伝えられない想いと
もどかしさに
また琥珀色の液体に
滴がポタポタ落ちていった







自由詩 琥珀色の悲恋 Copyright 渡 ひろこ 2007-06-23 19:42:46
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