月影
雪間 翔


夜、高台に吹く風は
ほどよい冷気と湿り気を帯びて

ふわり

汗ばんだ髪をすり抜けて
着古したスエットを撫でて
僕の涙をもさらってゆくのです

「昔、イカロスという天使は
父親から授かった翼を背に
太陽を、目指したんだ」

独り言は今夜だけ、ふたりごと
すぐ横の君の横顔は月と同じ色で

「けれど、父親の言い付けを守らずに
太陽に近付きすぎたイカロスは
真っ逆さまに、落ちたんだ」

いつかどこかで聞いた話、柔らかなデジャヴ
まぶたに心地よい風圧を感じながら
君はふふと笑って

「その天使はどうして
月を目指さなかったのかしらね」

僕もつられてあははと笑って
唇が唇で塞がれると
長い夜が急速に明けてゆくのを感じるのです


自由詩 月影 Copyright 雪間 翔 2007-06-21 16:39:07
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