伽羅の焼香
アハウ

朝日の当たる
マンションのベランダで

昨日の祈りで
天界へと返した霊たちに
伽羅の焼香をする

ミネラル水とミルク入りコーヒーを添えて

また 暑い夏がやってきます
あの日のように
空は晴れ上がり
じっとりと汗をかいています

六十年以上の月日が流れたのですね

言い伝えに聞くあの日々は
あたかも『地獄』がこの世に
せりあがって 狂喜乱舞した
血と涙と嗚咽と絶望の放心の暗く冷たい地下室
溝鼠が腐乱した下水道に浮かぶ我々の死体を無心に食らう
うめき声の季節だったのですね

アウシュビッツに送られた
ユダヤの民を
この太陽と月と星々の輝く天界に返す事は
至難の技だった
何故って
彼らは絶望のなか
ナチスを呪い 自らの生命も呪ったから
聖人でさえもアウシュビッツで自らの境遇に感謝できまい

限界状況のなかでも 死を前にして
この生きていた世に感謝できれば
満月の夜に天界へと帰れるのだが

戦争はこの世の地獄
最後の息をつく時
「この生はなんなのだ」と絶望のなか息を引き取る
その瞬間に業火の地獄門がぱっくり口を開けるのだ

戦争はいけない
今生 あの世 来世まで 傷つける

祈っています
また あの晴天の暑い夏の日が やって来ます


自由詩 伽羅の焼香 Copyright アハウ 2007-06-21 08:57:34
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