スピードについて
大覚アキラ

水の流れのはじまるところを想像していた
爪でつけた引っかき傷の薄くなって消えていくのを見つめながら
それはスピードについて考えることにとてもよく似ている
夕暮れはいつもゆっくりと訪れたかと思うと
油断した一瞬にスイッチを切るみたいにあっけなく終わる
それもまたスピードと深く関わっている現象なんだ
そんなあたりまえのことさえも
きみはつい最近まで知らなかったんだ
それは罪ではない
知らないままでいい
きみは知らないままでいいんだよ
そうさ
水の流れのはじまるところをきみは知らない
爪でつけた引っかき傷の薄くなって消えていくのをきみは知らない
そして
それは罪ではない
ピストルが今ぼくの手の中にないことを
ぼくは心の底から感謝したいと思う

ラヴ

アンド

ピース

あした夜が明けたらすぐに出掛けよう
中国縦貫道のちょうど真ん中辺りのサービスエリアのトイレで
ぬるいホットドッグを咥えながら並んで小便をしよう
ぼくはきっと
あまりにも馬鹿らしい壁の落書きに堪えきれずに噴き出してしまって
ホットドッグを口から落とすだろう
便器の中で小動物の屍骸のように転がるホットドッグが
悲しそうに水分を帯びていくのをぼくはじっと見つめるだろう
夕暮れが終わって金色の虹が真夜中の空に浮かぶまで
そして
それはスピードについて考えることにとてもよく似ている


自由詩 スピードについて Copyright 大覚アキラ 2007-06-20 13:01:21
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