ランドセル
ふるる

ちいさい頃
留守番の夕暮れ時
椅子の下だけが安全な場所で
  顔が出たら溺れてしまう
  足が出たら喰われてしまう
と思いこんでいた

入学式前
ランドセルを背負ってみたら
ランドセルに背負われているみたいだねと
おとなは笑った

安全な椅子は取り上げられ
わたしはランドセルに背負われて
まいにち学校へ

ランドセルはいつも
  顔が出たら溺れてしまう
  足が出たら喰われてしまう
と囁いてわたしを下ろすと
棚の中に収まりじっとわたしやほかの子たちを眺める

そして一日が終わると
わたしを背負って家へ

踏んづけられる度に
ランドセルは重くなっていき
重いからだでわたしを背負い

今日も明日も
明日も明後日も

ランドセルは
  顔が出たら溺れてしまう
  足が出たら喰われてしまう
と囁いてわたしを下ろす

一時間目のチャイムは澄んだ音色

安全な椅子は取り上げられたままに




自由詩 ランドセル Copyright ふるる 2007-06-19 16:27:54
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