赤ずきんとオオカミ
なかがわひろか

赤ずきんはおばあちゃんのお見舞いに行くために
おばあちゃんの好きなお菓子を持って
森の中にあるおばあちゃんのお家まで歩いていきました

森では川のせせらぎが聞こえ
鳥の声はどこまでも響き
とても穏やかです

おばあちゃんのお家に着くと
赤ずきんは鼻をつまみました
おばあちゃんの部屋はいつも変な臭いがするからです

コンコン、コンコン
おばあちゃん、赤ずきんです
コンコン、コンコン
開けてくださいな

部屋からおばあちゃんの声で入っておいでと聞こえました
少しいつもと違う気もしましたが
おばあちゃんの声などそう覚えてはいません
赤ずきんはより一層鼻を強くつまんで
部屋の中に入って行きました

おばあちゃんの好きなお菓子を持ってきたわよ
一緒に食べましょう
赤ずきんがそう言って
おばあちゃんが頭まで被っている布団を優しくはがすと
そこには大きな大きなオオカミがいました

赤ずきんのおばあちゃんは
赤ずきんが来る前にオオカミに食べられていたのです

赤ずきんはオオカミを見て
にっこりと笑って
これでもう臭くないわね、と言って鼻から手を離しました

赤ずきんはいいことを思いつきました
ねえオオカミさん
これからあなたがおばあちゃんの代わりになって
ここに暮らしなさいよ
そうすれば私だってここにももっと来るし
ママの面倒も省けてちょうどいいわ
それに今よりずっといい暮らしができるわよ
赤ずきんはオオカミにそう言いました

赤ずきんを食べてやろうと思っていたオオカミは
それもいいと思いました
残飯を漁って、食う物にも困る生活には
もう嫌気が刺していたのです

それでいいわね
さあおいしいお菓子を食べましょう

赤ずきんとオオカミがゆっくりと
午後のお茶を楽しんでいる間に
赤ずきんのおばあちゃんは
オオカミの胃の中で
ゆっくりと
消化されました

(「赤ずきんとオオカミ」)


自由詩 赤ずきんとオオカミ Copyright なかがわひろか 2007-06-18 01:58:29
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