◆硝子傷
千波 一也



ひと知れず眠り深まる硝子傷なさけに託した夢の数だけ


鋭さは傷つかぬこと自らが裂いたものにも怯えること無く


いつくしみ囲いを厭わぬいばら織り潤んで消える虹のひとひら


浴びながら覚えてしまう口笛を誰かの箱に置き去りの午後


つくられた哀しみならば喜んで擦り合わせよ紫のはな


拾えない欠片の底をこまやかにわたる波間は青よりも青


添えるべき綺麗な言葉に消えてゆく窓の硝子は閉じられたまま


ときを追う声をあつめて空はるか陽射しひとつも旅人に代え


素手がため素手を離れるその素手の握り締めたる水色の鍵


混ざりあう純真なればよこしまも器をそそぐひと筋の雨


さえぎられ炎は白く濁りゆく風から風へひとの手に乗り


帰路はまだ夕日の丘の工房で仕上がりを待つ数百の熱



短歌 ◆硝子傷 Copyright 千波 一也 2007-06-13 08:25:04
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【定型のあそび】