押し言葉
なかがわひろか

私にはあんたが
次に何を言うかもう分かってるけど
じっと
じっと
待つよ

ありが・・・
そこまで出てて
その後に何が続くか
もう十分に分かってるけど
私はあんたがちゃんと伝えたい言葉を
待つよ

ガラスに書かれた五十音を
あんたはもうほとんど動かんなった指で
一個一個押していく
限られた五十音の組み合わせを
あんたは一生懸命押さえていく

私には分かってる
あんたが伝えたい言葉は
もう何度も何度も聞いてるから

せやけど待つよ
じっと待つよ
あんたが言いたいなら
私は待つ

あんたはその言葉ばっかり言うから
もう文字がかすれて見えへんなってるけど

と、



押し終えたあんたは少し疲れてて
私はにっこりと笑って
うんと言って
またなんかしゃべったら
あんたが返事せなあかんなるから

私は何も言わんで
あんたを見て
じっと
じっと

あんたを見て

ほんまはそれしか
できへんで

(「押し言葉」)


自由詩 押し言葉 Copyright なかがわひろか 2007-06-11 23:34:44
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