リストカット
リストカッター
リストカッティング
症候群
どれも、今、よく耳にする言葉だと思う。
リストカッターとは、リストカットをしている人のことで、自分も、その一人。
ボクは、リストカットを、肯定しているわけではないが、否定することもできないでいる。
何のためにするのか。
その理由は定かではない。
自分でも、何故か分かっていない。
なのに、何故か、切ってしまう。
ふと、そんな気分になる時がある。
人を傷つけてみたいとか、他人に危害を加えたいと言う願望はない。
むしろ、それだけは否定する。
誰かを傷つけることは、なるべく避けたい。
その思いの矛先が自分に向いただけなのかは、分からない。
ボクが一番初めにリストカットを知り、実際にやってみたのは、中学三年の梅雨の頃だったと思う。
友達:巳緒(仮名)が、ある日、手首を傷だらけにして、学校に来た。
制服が半袖だったため、すぐにみんなの知るところとなった。
みんなは、彼女を遠巻きにして、近寄ろうとしなくなった。
『気味が悪い』と。。。
でも、ボクは、そう思わなかった。
むしろ、綺麗だと、美しいとさえ思った。
ボクは、精神的にマゾだと思う。
しかし、そのことが引き金になったわけではない。
彼女の傷を見たその日、家に帰ると、発作的に、手首を傷つけていた。
リストカットは、『伝染』する。。。
そう言ったのは、誰だっただろう。
もう、思い出すことさえできない。
あの頃のボクは、加減というものを知らなかった。
切り出すと、止まらなかった。
手首の付け根にカッターを押し当てて、肘まで一直線に切りつけたこともあった。
手の甲が、血だらけになるまで傷つけることもあった。
左利きのくせに、傷つけるのは、左腕ばかり。
その頃の傷が古傷と化してきている今、何故か爛れるように痛む。
まるで、ボクの罪を罰しているかのように。
腕を傷つけることが出来なくなってから、ボクは、古傷をえぐるように、爪を立てて掻き毟った。
傷が消えていくと、どうしようもない不安に駆られる。
彼女、巳緒も言っていた。
『傷があることが、自分の生きている証』なのだと。
リストカットは、『伝染』する。。。
最終的に決断したのは自分でも、引き金を引くきっかけにはなっただろう。
切った傷口を水に浸けることで、塞がった傷は、真っ赤な跡を残す。
水に浸けずに放っておけば、皮膚の色に同化し、傷だけが浮かび上がる。
日焼けをしても、そこだけは白いまま残る。
あの日から、堰を切ったように、ボクのリストカットは始まった。
あまりの失血量に、学校で貧血を起こして倒れることもあった。
ベッドから、起き上がることができない日もあった。
それでも、止めることができなかった。
あの頃は、リストカットが、自分の存在の定義だったからだろう。
そして、今は、彼女とのたった一つの絆に思えたからだろう。
なのに、あんな些細な一言が、ボクに歯止めをかけた。。。
何もかも見透かしたように、まっすぐにボクを見つめるその瞳は、まさに、無言の叱責だった。
体を傷つけられなくなった今、ボクは、心を傷つける。
自分など、壊れてしまえば良いと。。。
自分など、消えてしまえば良いと。。。
リストカットは、『伝染』する。。。