入水のち
夕凪ここあ

一夜目に
魚は水底で静かに息を潜めてる
女は甘い溜息を波紋の隙に流してる

二夜目に
月の裏側から覗く女の憂い顔
空虚に穴の開いた瞳と痩せ細った指先と嘆きと嗚咽

とうに音をなくしてきたから 入水支度
とうに渇いて仕方のないから 入水支度
裸足の爪先に鱗が生まれて 入水支度

躊躇いの夜
薄衣に手をかけて指先の三日月で引っ掻く
鮮やかな色合いと密やかな匂い
切り裂いた細い息と泡のように繊細な三夜目の晩

三日三晩のち新月

蝶の羽化を合図に
静かに入水
足元の鱗が
泡立つ
波立つ
水面
すっと
満水の
女の
横顔



一夜目に
女は波紋に甘い夢を見た
魚は水底で静かに息を引き取った

水面に凛と張る夜のなき声



自由詩 入水のち Copyright 夕凪ここあ 2007-06-03 01:12:04
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