文 字
をゝさわ英幸

真っ新な紙に文字が沁みる
字面になり損ね、はじけたもの
とばしった点と点
不必要に思われたものが
繊維を沈み込んで行く過程で
必要なものゝ如く
一本一本に記憶を残して行く

まだ紙の発明のならざる頃
鬱屈とした感情を抑え切れず
土に線を引き、岩に溝を刻み
遊んだ。……祭祀が邪気を払う為に不可欠の行いだったのかも知れぬ

甲骨の文字には
伝説的な古えのものがひそんでいる
それは時に音を発し、また黙る
墨が生れた刹那より
解放された文字の、かすれや沁みは
それらの音の名残かもしれぬ

文字を見つけた時
無意識の感覚が、意識の感覚となって
炙り出された如くに
なにかが生れ始め、生れ続けた
視線の先のものが
自画像をせがむように
文字となって迫り来る
季節が生れ、いつか過ぎ去り、そして老いる
流転する言葉を拒絶する術は無く
情景は刻まれた
深い深い記憶を、のちの記憶に繋ぐ為に
想像の及ばぬ
時間の繰返しの果てるまで
尽きるまで
意味は伝えられる
      ……のだ。


自由詩 文 字 Copyright をゝさわ英幸 2007-06-01 17:39:01
notebook Home 戻る  過去 未来