鏡ノ国 〜港の見える丘公園にて〜
服部 剛
赤煉瓦の橋を渡る
傘を差した婦人がうっすらと
遠ざかる面影映る
Cafeの窓
四角いテーブルの前には
文学館で偶然会った詩友が
詩について語っている
一足先に友は去り
文学館に残ったわたしは
ガラスの向こう側に貼られた
直筆の原稿用紙に目を凝らし
今は亡き 詩人の声を 耳にする
小雨降る
港の見える丘公園
森の入口へと続く
木の階段を下ってゆくと
ぽたぽた と
あちらこちらで
雨の
滴る音がする
今は亡き 母子の像は 今日も
俯き
ふたりの子供を
そっと優しく抱いている
ひとりは母の
懐に寄り添い
ひとりは ぎゅっ と握った小さい拳を
胸にあて
小雨降る
薄暗い日の森の
裡
母子像の前に立ち止まり
黒い爪先揃う足元見れば
一つの鏡がそこにある
歪んだわたしの人影は
うっすら水面に揺れている
細枝に
くっきりとした葉っぱが一枚
曇った空に手をふっている
佇むわたしの背後には
湿った木の間の望遠に
汽笛を鳴らす
港の船が浮かんでる
小さい拳を握った少年は
瞳を少し見開いて
わたしに秘密を囁いた
僕タチハ
昔ノ事故デ去ッタ後
今ハ鏡ノ国ニイマス・・・
黒い爪先揃う、足元を見る。
うっすら揺れる
水面の鏡に映る空から
葉っぱが一枚、落ちて来た。