鏡ノ国 〜港の見える丘公園にて〜 
服部 剛

 赤煉瓦あかれんがの橋を渡る 
 傘を差した婦人がうっすらと 
 遠ざかる面影映る 
 Cafeの窓 

 四角いテーブルの前には 
 文学館で偶然会った詩友が 
 詩について語っている 

 一足先に友は去り 
 文学館に残ったわたしは 
 ガラスの向こう側に貼られた 
 直筆の原稿用紙に目を凝らし 
 今は亡き 詩人の声を 耳にする 


 小雨降る 
 港の見える丘公園 
 森の入口へと続く 
 木の階段を下ってゆくと 
 ぽたぽた と 
 あちらこちらで 
 雨のしたたる音がする  

 今は亡き 母子の像は 今日もうつむき 
 ふたりの子供を 
 そっと優しく抱いている 

 ひとりは母のふところに寄り添い 
 ひとりは ぎゅっ と握った小さい拳を 
 胸にあて 


 小雨降る 
 薄暗い日の森のうち 
 母子像の前に立ち止まり 
 黒い爪先揃う足元見れば 
 一つの鏡がそこにある 


歪んだわたしの人影は 
うっすら水面みなもに揺れている 

細枝に 
くっきりとした葉っぱが一枚   
曇った空に手をふっている
 


 たたずむわたしの背後には 
 湿った木の間の望遠に 
 汽笛を鳴らす 
 港の船が浮かんでる 

 小さい拳を握った少年は 
 瞳を少し見開いて 
 わたしに秘密を囁いた 


僕タチハ 
昔ノ事故デ去ッタ後 
今ハ鏡ノ国ニイマス・・・



 黒い爪先揃う、足元を見る。 


うっすら揺れる 
水面の鏡に映る空から 
葉っぱが一枚、落ちて来た。
  








自由詩 鏡ノ国 〜港の見える丘公園にて〜  Copyright 服部 剛 2007-05-30 20:14:54
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