もいっぺん、童謡からやりなおせたら(第二稿)
角田寿星
詩 って なんだろうね?
君がぼくに訊ねる
ぼくは 脱いだばかりの
クツ下のにおいを無心に嗅いでいて
君の問いに答えられない
君の目とぼくの目とが ゆっくり重なる
たとえば 早朝の草野球
主将どうしが試合前に握手しながら
詩 って なんだろうね?
という会話はしないだろうし
あるいは 帰りがけのコンビニ
店員のおねえちゃんが
付けまつ毛をパチクリさせて釣りを渡すとき
詩 って なんだろうね?
と話しかけはしない
思えば 結婚して10年になるけど
君とぼくが
詩について話したことは一度もないんだ
詩 って なんだろうね?
君は ぼくに今すぐにでも訊ねてほしい
その時ぼくはきっと
足の裏のにおいを嗅ぐふりをして
困ったような笑顔を君にむけるだろう
詩は たぶん
読んだり暗誦したり歌ったりするものなんだ
と 思うんだけど
ぼくはやっぱり君の問いに答えられない
ぼくら もいっぺん
童謡からやりなおせたらいいね
ぼくら幼稚園のスモック着て 手をつないで
廃墟に腰かけて空を見上げて
体験した戦争とかの
記憶をすべてうしなったままで
そして君とぼくは 詩の話をしよう
今ここには 君とぼくと詩しかいないから
夢や木の葉の話でも
故郷の大きな火山の話でもいい
そうだぼくは ぞうさん とか
みかんの花咲く丘 とか
それいけアンパンマン に
比肩しうる詩をいつか書くんだ
わけのわからないたたかいにわけのわからないまま参加させられて
今この瞬間に世界のいたるところで叫びごえひとつあげることなく
消えていくいのちがどれくらいあるのだとしても
それでも詩は必要なんだと
できるかぎり胸をはって
ねえ
詩 って なんだろうね?
ぼくは君に
ひとりごとのようにつぶやいてみる
君は子どもたちの世話とか
夕食の支度に忙しくて
ぼくの問いに
答えられない