潮騒
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盗んだたばこを干し呑んだ冬枯れの日
降り積むひかりを踏みしめると泣いて
頭が乾いて冷たく割れた
おんなと名乗る人に連れられ
水垢まみれのざらつく家には
もう帰らないと告げる

曼谷の棚裏に隠れまた火を点した日
蔓のさきっちょに桃の薫で仏像を刻む
ストローをくわえた蝶々たちが
ずう、ずう、ず、腰ふりながら
蟀谷を塞いで
気鬱を咥えた

難破した岬に行き着いたのは
逆さまな屋根が構えの暗がりに
おんなと名乗る人を連れさったあの日
油臭い老犬の毛皮が幾度も砕かれ
波が噛む岩に吐いた唾の音まで淫らで
月のカーブが岬の肱から解かれた頃
おとことおんなのすることは
白く揺れ迫り
蒼く漂い返し
どう、どう、ど、深い河となる
しおざいが眩しい
別れ皺に溶けて流れる

どこまでも暗い海に濡れながら
崩れた音もなく泣いているおんな
開け放たれた窓に凭れながら
静かな潮に差し寄せられると
声にして泣いて
握りしめたハンドルの
奇妙な笑みが美しかった
どこへ行くべきなのか分らないあの日
東へ向かう残光に
泡立つ雲が散る







自由詩 潮騒 Copyright soft_machine 2007-05-27 23:31:24
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