沈黙
チグトセ
人びとは沈黙を挟んで同じ世界に
仲良く寄り添う
皆はこの豊かな沈黙に
穏やかなメロディーに
静かに耳を傾けて心地よさそうにしているので
僕も同じように耳を傾けてみる
電車の中で僕は
仕事帰りのサラリーマンの隣に座った
僕たちは沈黙を挟んで寄り添って
違う目的地に進む
彼は憂鬱なため息を長く、長く吐いたあと
静かに息を吸い込んだ
沈黙の海は生温かい
人びとは沈黙を守る
僕もそれに従う
従うのだけれど
彼に伝えてみたかった
今日も仕事が大変だったのだろうか
疲れ果ててしまったのだろうか
それでもあしたも頑張るのだろうか……
けれども
この沈黙を破ることはできなかった
世界を壊すことができなかった
僕は携帯電話を開いて
宛名のないメールに文字を打った
あなたを尊敬します
そうしてそのままずっと
目的地に着くまで沈黙を守った
向かいの席のおばあちゃんが
やがて静かな声でうたいはじめた
平べったい旋律で
孫のうたを