宇宙 ☆
atsuchan69

鋼鉄を 遙にしのぐ
美しく、強靭な 折り紙細工の船にのり
飴色のラタンの椅子に腰掛けて
今宵もまた 私の人差し指は、
暗く果てしない 緻密な航路を正確になぞる

航行中もドアの向こう側には
危なげなく私の故郷があり、
いつでも自由に出入りできる仕組みになっていた
なので殆どの時間は書斎で部厚い本を読んで過ごしている
誰もがそうであるように、退屈な飛行には興味もなく
やはり安易な空間歪曲システムを利用したい

今どき恒星間旅行など流行らないし
すでに距離と時間を征服してしまった人類にとって
スリリングな離陸と着陸のシーンを味わうこと意外に
宇宙飛行の醍醐味というものは感じられない

家にもどると、さっそく犬の散歩をし
擦違う、デビルと呼ばれる人体改造者たち

紫の肌や、
鱗のある顔
鶏冠のついた頭
蛇の眼、
空をとぶ巨大な虫や鳥だの
蠢く爬虫類の姿をした人間だの‥‥

非合法のボディパーツを売るのは、
犀と人とのキメラ
様々な色かたちをした
動物の性器を並べる露店の数々
売人たちはなぜか皆、ドカジャンを着ていた

公園のはずれでタコ焼きを買う
 だが犬にはやらない
私の座るベンチの前を、
ぶつぶつと詩のようなものを呟くヘンな人が通り過ぎる
――ここは、仮初の場所 ))
と、赤いマフラーを首に巻いた彼は小声で言い
私は熱々のタコ焼きをひとつ頬張る、
 だが犬にはやらない
――ここは、今‥‥ ))
暖かそうなチェスターコートを着たヘンな人は遠退き、
 あ、濃いソースが舌の味蕾を刺激する
すると突然、犬が私に飛び掛って
口のまわりをペチャペチャと舐めやがった

そして風呂あがり、
裸のまま缶ビールを飲み干し
ガウンを纏ってふたたび軋むラタンの椅子に就く
地球を飛び立って既に14ギガパーセク。
その間に私の子供たちはとっくに成人した

虚無の彼方にさえ時の終焉はまだ見えず、
宇宙の冷たさが操縦パネルを伝って身に沁みる

 「 どこへ向かっているのかしら?
妻がいつものように焼酎のお湯割を運んだ

 「 懐かしの地球だよ、宇宙を一周してさ
 「 いいかげん、はやく戻りなさいよ
 「 ところが そうは簡単にいかないんだナ、これが
 「 私、もう寝ますから

ああ。
宇宙ってところは‥‥

やっぱし、一人ぼっちだ


自由詩 宇宙 ☆ Copyright atsuchan69 2007-05-22 02:24:00
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