アメアガリ
チグトセ

ビルの
濡れたところと乾いたところ
海岸通りによく目立つ
あの一枚岩のビルが
晴れ間の舞台に立ち
静かな雑音と共生しはじめたばかりの今
まるで定規で測ったような岩壁のところどころが
濡れていたり乾いていたり

あの濡れたところが幸せのところだとして
だから
いずれは乾いていくんだろう

今日ねあまりにも詮ない事件があったよ
君はそっと空へ受け流す
――別に悲しかったわけじゃあないから
――そうだね
君を送り出したときから始まったんだ
ふいにすることなんてできない
そしてもう一度空へ受け流す

昂翼が翔んで一瞬で消える目の前を
風を
釈明するつもりなんかないよ
ねえずっと、遠慮と強欲、ばかりだったね
二人の
ちぐはぐなやりとりはいつだって完成したことがなかった


開いている目が乾いてきた
灼けつくタイヤの匂いと
今のぼっていこうとする階段
石畳の隅に挟まった名前のない音と
そこに貼り付いたまま動かない影

ビルに収容された奥様が談笑している
傍を少年が繰り返し歩いている
そこには並んで飽和したベランダの洗濯物と
白んでいく昂翼と
逃げ場を失った龍と鳳凰と

雲に運ばれていく鳥
それを運んでいく雲
ざわめく木々は風に揺られ
ざわざわ葉擦れ、ぼやけた
遊覧飛行の虹




自由詩 アメアガリ Copyright チグトセ 2007-05-21 22:29:28
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