life
小川 葉

彼は とても深い 土の中にいた
どちらが 上か下か 右か左か
わからず 長いこと 過ごした

熱 を 感じた ある日
それが すべてを 決定した

確信した 意思のまま
夢中で その方向へ 掘り進んだ

そうして やっと 地上に出たとき 
そのときこそ まばゆいばかりの 太陽が
あらわれる はず だった が
皮肉にも
地上は そのとき 真夜中だった

救いと言えば 月が 出ていた
よりによって 新月 であった

土の中と 同じく ほとんど 地上は 真っ暗で
ただ ぼんやり 輝く 無数の星たちが
新入りの彼を ひやかし 歓迎してくれた

まあ こんなんでも 悪かねえ
これこそ 俺が 夢に見てきた
世界というもの なのかも知れぬ

などと 開き直った 彼は
ずっと 憧れてきた 太陽より
むしろ 月のことが
大好きに なった

星たちの ひやかしも 気にならず
新月 三日月 半月 満月
月は じつに 気まぐれで
素直で
いさぎよく 自由
爽やか かつ
鮮やかで
気持ちが 晴れ晴れするほど
見事に
あっけらかんとしていて
その 強さ

ただただ 人間的だと 思った

彼が はじめて地上に到達し それから
人間になって 生きてゆくためには
そんな 月こそが お手本となった

新月は 悲哀ではなく
満月は 充実ではなく

彼は そのように 現実というものを
受け入れたのである

すべては もう
はじまっている
新しく せっかちに
はじまっている

夢は
太陽の 輝き続ける
ままに しておけ!


自由詩 life Copyright 小川 葉 2007-05-15 22:01:49
notebook Home 戻る  過去 未来