月に請うのに
ヴィリウ



ねえ、おまえ。
おまえさま。

なんて
お女郎みたいな呼び方をして悪かったね
怒らないで こっちを向いてお呉れ
ねえどうか
機嫌を直してお呉れな



ねえ、おまえ
あの子はどれ程怖かっただろうね?

只の一度も日の光を見る事なく
縋るものも無く
たったひとりで
あの川を 渡って往かなきゃならないなんて
後姿が 見えるようだったよ
おまえの腹が
真っ平らになった時

嗚呼なんて 可哀相な子




ねえ御前。
御前様。

もう名前は忘れっちまったよ
御前様。
そう呼んで お女郎よろしく可愛がった頃が懐かしいね

ねえ
どっちだったろうね

生まれても生きなかった御前と
生まれる事さえ許されなかったあの子
一体どっちが憐れで
此の世の地獄を見た御前と
此の世の希望を知らずに逝ったあの子
わたしにはどちらも可哀相

御前の名前は忘れ果て
あの子の名前も付けそびれた

わたしが一番悪党かもね








ねえ、おまえ。
おまえさま。

月は満ちて居たよ
あの時も
今だって



わたしは狂おしい思いで請うて居た
どうかこのまま
仕合わせなまま
命を繫いでゆけますようにと

今も夢に見る
あの頃が懐かしいね





ねえ、おまえ。



未詩・独白 月に請うのに Copyright ヴィリウ 2007-05-15 10:20:36
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