◆春の扉
千波 一也

吹きぬける冷たい風の空高く
ひかりの鼓動は
静かにそそぐ



雪解けをあつめて川は哭いている
生まれたばかりのわたしの春に


ひとひらの可憐な花は弓使い
瞳砕けて曇りをうるむ


足もとの小石も土もおなじ色
分かつ救いにつまずいて嗅ぐ



すれ違うこころの指に鍵のおと
なくさずにある
ただそれだけの


純粋に薄れてしまう哀しみを
混ざりあわせて荷はあおく澄む


みえなくて染まってしまう浅はかさ
乾く間もなく想いはあふれて


めくられた日記のなかの草原に
髪さそわれて風としたしむ


温もりを胸の深くに抱きしめて
過ぎゆく景色に会釈をひとつ



きみの名をまもり通せる細腕を
誇り、恥じらい、ちいさく駈ける



約束はいつかかならず果たされる
だれかの扉で
見知らぬ顔で



透明にそらの無言を受けとめて
数限りなき分岐路に咲け







短歌 ◆春の扉 Copyright 千波 一也 2007-05-13 16:18:42
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【定型のあそび】