お婆ちゃんのきっす 
服部 剛

「 みなさ〜ん 
  ぼくのあとについてくると 
  穴に落ちますよ〜     」 

背後から 
ぞろぞろと 
杖をつくお爺ちゃんや 
車椅子をこぐお婆ちゃんが 
頼りない 
ぼくの背中についてくる 

玄関を出て
帰りの車へと誘導し 
まあるい腰を両手で支え 
座席へとお尻を移す 

横開きのドアを 
がららと閉める 

お婆ちゃんのひとりは  
皺々しわしわの手を口にあて 
投げきっす 

窓ガラス越しに 
いくつものつらなるは〜と 
飛んできた 

思わずぼくも 
口に手をあて 
投げ返したあと 
うつむいた 

お爺ちゃん・お婆ちゃん達を 
ぎっしり乗せて 
小さくなってゆく車に 
大きく両手を振る 
夕暮れのひととき 

がらんと静まり帰った 
老人ホームの部屋に戻ると 

さっき投げきっすをした 
お婆ちゃんが乗っていた 
車椅子が一台 
少し寂しく 
背を向けていた 





自由詩 お婆ちゃんのきっす  Copyright 服部 剛 2007-05-12 18:01:16
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