幸せ
美砂


ただひとつ思い出を選べといわれたら
私はあの日を
傘をさした母と
手をつないで二人駄菓子屋まで歩いた日を
選ぶだろう

この世に完全な幸せがあるとしたら
きっとそんな遠い日の
小さすぎて  ありふれて  笑い飛ばされそうな
だからだれにも話したこともない
それでも   あまりにも
かけがえのない
瞬間に……


たったひとつ思い出を選べといわれたら
50メートルにも満たない
家からのあの坂道を
ゆっくりとのぼってゆく
こわいほどに若い母の手を握った 私の心


音のしない 霧に似た
雨の日に浮かぶ

二つのシルエット





自由詩 幸せ Copyright 美砂 2007-05-10 22:34:10
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